2025年版|チェンマイから日本へ!直行便で広がる関西・北陸インバウンド需要

訪日インバウンド市場において、タイは常に上位に位置する重要国です。
2024年には訪日タイ人観光客数は約115万人となり、ASEAN主要国の中でも安定した成長を示しています。これまで主役だったのはバンコク発の旅行者でしたが、近年では 地方都市からの訪日需要 が注目を集めています。その代表例が、タイ北部の中心都市「チェンマイ」です。
2025年9月5日〜7日にチェンマイの大型ショッピングモール「Central Festival Chiangmai」で開催された TITF North 2025 を視察しました。このイベントはタイ北部最大規模の旅行フェアであり、国内外の観光局や旅行会社が多数参加。日本からはJNTOバンコク事務所と 千葉県 が自治体として出展し、韓国、台湾、マレーシアも観光局を派遣していました。
平日開催にもかかわらず会場は活況を呈し、通路は常に人で溢れ、ブース前では旅行者が熱心に話を聞いていました。ヒアリングを行ったところ、来場者の多くが「すでに日本を何度も訪れた経験があるリピーター」であることが判明し、改めて チェンマイ市場の可能性 を感じることができました。
今回は、この視察体験を軸に「チェンマイ訪日インバウンド市場動向」を包括的に整理し、今後の戦略のヒントを提示します。
今回、数年ぶりにチェンマイの旅行博へ視察に行ってきました。ネット情報だけではわからないイベントの生の声をお伝えしますのでご参考にしてみてください。
チェンマイ市場の特性
経済・社会背景
チェンマイは人口約180万人を擁し、タイ北部経済の中心地です。観光都市としてタイ国内外の来訪者も多く、都市規模以上に情報や人の流れが活発です。
バンコクと異なるのは、中小企業オーナーや自営業者が多いこと。大企業の経営者層が集中する首都圏とは違い、チェンマイは「小金持ち」が市場を支えています。彼らは慎重でコスト意識が高く「ケチ」と評されることもありますが、家族旅行や団体旅行に対しては積極的に支出します。つまり、価格と価値のバランスが明確な商品に強く反応する市場なのです。
旅行スタイルの特徴
・FIT(個人旅行)が拡大するバンコクに比べ、チェンマイでは募集型ツアー参加率が比較的多い。
・地域やコミュニティ単位での団体旅行が盛んで、旅行会社による造成力が重要。
・「付き合いのある旅行会社に任せたい」というニーズが強く、現地スタッフの提案力が売上を左右する。
これらの特徴は、訪日インバウンドの担当者にとって「チェンマイ市場は旅行会社連携が必須」であることを意味します。
TITF North 2025の現場から見えたもの
出展者の顔ぶれ
今回のTITF Northには、日本、韓国、台湾、マレーシアの観光局が参加。日本からは 千葉県 が出展し、地元の観光地案内や成田空港へのアクセスを強調していました。他国も同様に「地方都市からの直行便活用」をアピールしており、チェンマイ市場を戦略的に取り込もうとする姿勢がはっきり見て取れました。
■来場者の属性
・年齢層は30〜50代のファミリー層が中心。
・学生や若年層も一定数来場し、LCCの価格メリットに関心を寄せていた。
・来場者の多くが「日本リピーター」。中には「10回以上行った」という人も。
■人気の行き先
・第一候補は 直行便が就航している大阪・京都・奈良を中心とした関西圏。
・次点で 北陸や北海道の雪体験 が注目を集める。
・桜や紅葉など季節需要も依然として強い。
特徴的な声
・「東京からレンタカーを利用して富士山を見に行く」
・「直行便が少なく、台湾や韓国乗り継ぎになるが、空港で市内観光のツアーに申し込みできるので2カ国楽しめてお得」
・「家族旅行なので、旅行会社のツアーを利用したい」
この声から、直行便需要と経由便需要が共存する独特の市場特性が見えてきます。
航空便と旅行動向
2025年現在、チェンマイから日本への直行便は タイベトジェットのチェンマイ⇔大阪(関西空港)線のみ。週4便運航で、所要時間は約5時間20分です。
直行便のメリットは明確です。
・バンコクを経由する時間とコストを削減。
・関西から雪需要の北陸や中部方面へのアクセスが容易。
・FITだけでなく団体旅行にも組み込みやすい。
一方で、課題は便数の制限です。繁忙期にはチケットが埋まりやすく、旅行会社は商品造成に苦労しています。この隙間を埋めるように 台湾・香港・韓国経由便 が人気を集めています。
「乗継は不便でも、その国の空港で数時間観光できるなら得」という感覚が旅行者に浸透しており、特に学生層や若者には好意的に受け入れられています。
旅行会社とツアー造成の実態
ローカル旅行会社
チェンマイには数多くの旅行会社がありますが、商品造成力に差があります。一部日本の知見がある旅行会社は日本向けツアーを独自造成し、桜や雪をテーマにしたコレクティブツアーを展開。一方で、多くの旅行会社は造成力が不足しており、バンコクのホールセラーが作った商品を仕入れて販売しています。
バンコク発商品の問題
ホールセラー造成の多くは「バンコク発商品」であり、チェンマイからバンコクへの国内線費用が追加されます。結果として割高になり、旅行者は「直行便利用商品」か「経由便で2カ国楽しめる商品」を選びやすくなります。
現場の声
TITF Northで話を聞いた旅行会社担当者からは、 「もっとチェンマイ発の直行便を使った商品を造成したい」「バンコク経由だと価格競争で勝てない」 といった声が多く聞かれました。
これは、訪日担当者が ローカル旅行会社と直接連携し、チェンマイ発のオリジナル商品を作る余地が大きいことを示しています。
特にチェンマイー関空の直行便がある西日本エリア、中部エリアの方はチャンスが潜んでいます。
ターゲット別攻略戦略
■ファミリー層
チェンマイの家族旅行でも「子供に雪を見せたい」「温泉に入りたい」といった体験志向が中心です。直行便で関西へ入り、北陸の雪体験や温泉宿滞在、ハイライト観光地を回るプランが好まれ、旅行博や対面営業での丁寧な説明が購買を後押しします。
■中小企業オーナー層
チェンマイでは中小企業のオーナー層が多く、コストに敏感でありながら社員旅行や取引先との団体旅行には積極的です。専属ガイドを付けた安心感のある商品が有効で、旅行博や商工会を通じた営業やB2B訪問が成約につながりやすいです。
チェンマイ市場で効果的なマーケティングチャネルは、オンラインとオフラインの双方を組み合わせることが鍵となります。まず、タイ全土で言えますが、利用率が高いFacebookは依然として家族層や中高年層に強く、旅行博の開催に合わせた広告配信と組み合わせることで高い効果を発揮します。そして、何よりも対面営業が信頼構築に直結する市場であり、旅行会社スタッフとの関係性が購買に強く影響します。オンライン広告と対面営業を掛け合わせた「ハイブリッド型アプローチ」が、チェンマイ市場では最も有効な戦略と言えるでしょう。
今後の見通しと課題
市場拡大要因
直行便による関西・北陸アクセスの強化
チェンマイからの直行便がある関西国際空港は、日本の主要都市圏へのゲートウェイであると同時に、北陸や中部への二次交通が整備されています。北陸新幹線や特急列車を組み合わせれば、大阪から金沢や富山、名古屋方面へも容易にアクセスでき、周遊ルート造成の幅が広がります。直行便の存在は「バンコクを経由せずにすぐ日本へ行ける」という利便性と安心感を旅行者に与え、市場拡大を下支えしています。
リピーター層の厚み
TITF North 2025でのヒアリングからも明らかになった通り、チェンマイにはすでに複数回訪日経験を持つ旅行者が多く存在します。リピーターは「定番」だけでなく「次は違う地域へ行きたい」という動機を持つため、北陸や中部などの新規エリアに誘導しやすいのが特徴です。訪日担当者にとっては「深堀り型の商品」を提示する絶好の市場です。
季節イベントの根強い人気
桜、紅葉、雪といった季節需要は依然として訪日動機の中心にあります。特に雪遊び体験はチェンマイのファミリー層にとって特別な魅力であり、直行便のある大阪からアクセス可能な北陸エリアでの温泉や冬のアクティビティと組み合わせることで高い訴求力を持ちます。春は桜、秋は紅葉、冬は雪という「三本柱」がしっかり存在するため、年間を通じて安定した訪日需要を維持できる点は大きな強みです。
課題
直行便の便数不足
タイベトジェットによる直行便は週数便に限られており、繁忙期はすぐに満席となります。旅行会社は商品造成に必要な座席を確保できず、販売機会を逃すリスクがあります。座席供給が限られることで、旅行者が経由便に流れるケースも多く、市場拡大のボトルネックとなっています。
ローカル旅行会社の商品造成力の限界
チェンマイの旅行会社は、バンコクの大手に比べると人材・ネットワーク・企画力が不足しているケースが多く見られます。結果として、バンコク発ツアーを仕入れて販売する「受け身型ビジネス」に偏りやすいのが現状です。この構造を打破できなければ、価格面でも商品面でも差別化が難しく、旅行者にとって魅力的な商品が生まれにくいという課題があります。
経由便との競合
台湾・香港・韓国を経由して日本へ向かうルートは、一見不便でありながら「トランジット観光」ができるという付加価値を持っています。旅行者は「一度の旅行で二カ国体験できる」というお得感を評価し、敢えて経由便を選ぶことも少なくありません。この競合要因を踏まえると、日本側は「直行便ならではの利便性」と「日本滞在の充実度」をどう訴求するかが問われます。
タイ人の中国旅行ブーム
近年、タイ人の間では中国旅行の人気が急上昇しています。LCCの就航やビザ要件の緩和、SNSを通じた話題化によって、中国の都市や観光地が手軽で身近な旅行先として定着しつつあります。チェンマイ発でも中国各地への便が多く、価格も日本行きより割安なケースが多いため、「近くて安い中国へ」という選択をする流れが強まっています。結果として、日本行き商品は「高価格でも特別な体験ができる」ことを明確に打ち出さないと、中国旅行に流れる層を取り込むのが難しくなっています。
訪日担当者が取るべきアクション
自社でツアー造成が可能な現地旅行会社との共同造成
ローカル旅行会社と直接連携し、チェンマイ発のオリジナル商品を造成することが重要です。例えば「直行便+北陸雪体験+関西ショッピング」といった差別化プランを共同で企画すれば、バンコク発ツアーとの差別化が可能になります。現地スタッフの販売力と、日本側の地域資源を組み合わせることで、持続的な商品造成が実現します。
航空会社との共同キャンペーン
直行便の便数が限られる中で、旅行需要を喚起するには航空会社との協力が不可欠です。座席を旅行商品とセットで販売する「チャーター枠」や、SNS・旅行博での共同キャンペーンなど、航空会社と一体化した販促を行うことで、安定した集客と販売を見込めます。
地域資源のストーリーテリング強化(桜・雪・紅葉+体験)
チェンマイの旅行者はすでに日本の定番観光地を訪れているため、「次に行く理由」が必要です。桜や紅葉といった自然の美しさに加え、温泉、鉄道、食文化などを物語としてパッケージ化し、旅行者に「特別な体験」をイメージさせることが大切です。単なる観光紹介ではなく、「なぜ今この地域に行くべきか」を語ることが選ばれる商品への第一歩になります。
まとめ
チェンマイ市場は、訪日インバウンドにおける「新しい玄関口」として成長を続けています。
・直行便が生む関西・北陸周遊の可能性
・募集型ツアー参加率の高さ
・「お得感」を求める旅行者心理
TITF North 2025の盛況と来場者の声から、チェンマイ市場はすでに成熟したリピーター市場であり、次の一手を求めています。
訪日インバウンドの担当者にとって、ここは「挑戦と機会」が共存する市場です。航空会社、旅行会社、自治体が連携すれば、チェンマイ市場を起点に関西・北陸をはじめとする地域誘客を一層拡大できるでしょう。