【H.I.S. Toursインタビュー】日本とタイの旅行業界を見てきた社長が語る、これからの訪日インバウンドの一手とは?

【H.I.S. Toursインタビュー】日本とタイの旅行業界を見てきた社長が語る、これからの訪日インバウンドの一手とは?

2018年、ついに日本を訪れるタイ人の数が100万人を突破しました。これからもどんどん増え、多様化していくであろうタイ人の旅行トレンドを、旅行業界のプロはどう見ているのか?

今回は、タイ・バンコクに拠点を置くH.I.S. Toursの代表・津田周和さんにスイムの後潟(うしろがた)がお話を聞いてきました。

 

インバウンドもアウトバウンドも成功しているタイは、H.I.S.の中でも稀有な拠点

後潟
今日はよろしくお願いします。
早速ですが津田さんはH.I.S. Tours(H.I.S.タイ法人)の社長ですけど、普段はどんな仕事をしているんですか?(笑)
津田社長
え、いきなりそこですか!(笑) 難しい質問。そうだなぁ……
うちってインバウンドとアウトバウンド、ふたつをやっているじゃないですか?

専門用語 メモ

  • インバウンド=自国に観光客を呼ぶ活動。この場合はタイに来てもらうこと
  • アウトバウンド=自国民を外国に送る活動。この場合はタイ人の海外旅行
後潟
インバウンドとアウトバウンドって会社が別なんですか?
津田社長
いえ、一緒です。今H.I.S. Toursは22年目になりますが、インバウンド事業からスタートして、あとからアウトバウンドができて。実は、世界のH.I.S.グループ全体から見てもすごく珍しい支店なんですよ。
インバウンドもアウトバウンドも同じ場所でやっていて、しかもどちらもビジネスになっているというところが。
後潟
え、でもたとえば台湾はどうですか?
津田社長
うちの会社でいうと、台湾は、インバウンドは強いけど現地人のアウトバウンドはほとんどできていませんね。で、インバウンド大国(日本人が行く旅行先)でいうと、大きいのがハワイ。あとはグアム、韓国、台湾。インバウンドの視点からするとこのあたりがすごく大きい。
それでいうとタイもインバウンドの面からすると大きいわけですよ。観光大国だから。
後潟
なるほど。H.I.S.さんでアウトバウンドで成功している国ってどこがあるんですか?
津田社長
そうですね……。世界69カ国進出している中でアウトバウンド、いわゆるローカルの市場に向けてビジネスができてる国って、タイ、ベトナム、インドネシア。そのくらいですかね。タイはその中で、唯一成功の度合いが進んでます。
後潟
東アジアだと海外旅行者も多そうですが、そのエリアはどうですか?
津田社長
現地の旅行会社だったら東アジアも強いでしょうが、結局H.I.S.は日系企業で海外進出していて、それって日本人をその国に呼ぶインバウンドビジネスのために進出してるんですよね。
それを考えると、その先々の国でアウトバウンドビジネスをやるのは次の段階。大半の国が、まずはその国にいる日本人、いわゆる駐在員マーケットに向けた展開からはじめて、せっかくやってるんだから現地の人にも……と段階を踏んでやっていくわけですけど、タイはその中で唯一成功した国です。
後潟
さっきお話に出たインドネシアとかは?
津田社長
インドネシアもインとアウトあるんですけど、拠点となる都市が異なるんです。アウトバウンドの拠点はジャカルタで、インバウンドの拠点はバリになっちゃう。
後潟
なるほど! たしかに外国人が旅行に行きたいのはバリで、海外旅行に行ける現地の人が多く住んでいるのはジャカルタになりますね。
津田社長
相当前置きが長くなりましたけど、まったく違うビジネスを同時進行でやっているので、各部門からの報告や、抱えてる問題の量もまぁ多いんですね(笑)。
一番大変なのは、お金のことと、人のことですね。人事と経理。そのへんの調整を日々やってます。報告だけで丸一日つぶれることもありますし……。
後潟
(聞いているだけで大変そうやな…… ゴクリ……)

 

タイ人と日本人の海外旅行のちがいとは?

後潟
タイと日本。どちらの国も見てきている津田さんが思う、タイ人と日本人の海外旅行の動向の違いってありますか?
津田社長
タイ人(マーケット)のほうが、アグレッシブだなと思います。
特に自分が海外に出てから日本を見て思うのは、日本人ってやっぱり島国の、すごく独特な旅行スタイルがある。
後潟
独特な……? どういうところでしょう?
津田社長
日本人って、日本が最高だと思っている人が多いんです。そこでいうと、海外に思い切って旅行しようという需要もエネルギーも好奇心も少ない。
後潟
特に今若い人が海外に行かないっていいますね。
津田社長
まぁ今だとアクティブシニアの層が海外に出ていますけど、基本はルートに乗っかった旅行が多い。
後潟
押さえておくべき観光地をめぐっていくスタイルですね。
津田社長
あとはリスクに対してすごく慎重です。一発でも小さな爆発がおきようものならピタッと客足が止まる。
タイの人はそのへんが楽観的なのか、地震や台風が起きたら瞬間的には下がりますけど、少しすればお客さんは戻ってきますよね。あと、日本旅行でもいろんな街に行こうという好奇心が旺盛だなと思います。
後潟
東京大阪は特に路線も多いですし、大都市を拠点にいろんなところに出かけていますよね。
あと、タイと日本だと旅行形態にも違いがあるなと感じています。日本人はグループ旅行(パッケージツアー利用)が多いイメージがあるんですけど、タイは1回目から個人手配の旅行が多い。
津田社長
そうですね。それって、ただ単に国民性ってわけじゃないと思います。というのは、海外旅行って自国の資産を海外に持ち出す行為です。だからある程度国も市場も安定していないと出られない。
そういう意味で旅行に対してのマーケットの成熟度は日本のほうが高いと思うんですよ。最初はみんなで同じ帽子を被って、旗振る人についていくような旅行をしていて、今は各自が自由に旅行するスタイルになっている。段階を踏んでいるんですよね。
タイの場合は、海外旅行に行ける国力になったタイミングで、もうインターネットの時代になっている。個人で旅行情報を探して、オンラインの旅行会社からチケットを買うことができる。
後潟
そもそも家に固定電話を引く前からスマホが普及した国ですもんね。段階が飛んでいる。
津田社長
そうそう。そういう環境だから、今のタイ人が体験している旅行感というのは僕には想像できない。だから、もうそのあたりは若手に任せています。
後潟
タイ人の旅行トレンドって何かありますか?
津田社長
旅行マーケットのトレンドを作るのはタイもやっぱり女性ですね。F1層(20〜34歳の女性)とF2層(35〜49歳の女性)。
ただ、日本だと友達同士の女子旅とか母娘旅とか、女性同士をターゲットにした企画をよくやりますけど、タイは家族旅が多い。
後潟
そうですね。たしかに。
津田社長
日本のインバウンド担当の人と話していて「家族旅行ってどうなんですか?」って聞かれるんですけど、日本人の家族旅行とタイ人の家族旅行って概念が違うじゃないですか?
後潟
タイ人は家族の規模が大きいですからね。
津田社長
そうです。日本人が思う家族旅行って、小さい子供連れてビーチに行くようなものすごい近い親族を指しますよね。
タイ人の家族旅行は家族の概念が広いから、10人くらいになったりする。家族4人で行きますっていっても、そのメンバーに親戚のおばちゃんが入っていて部屋を共有してたり、そこがだいぶ違う。
後潟
日本人の訪日担当者と「家族旅行」という言葉で話してしまうと、話が食い違ってしまいそうですね。タイだと家族の規模が大きいので、家族でプライベートツアーを申し込んだりするケースも多いですよね。
津田社長
そうですね。個人手配の旅行に家族で出かけるような感じで。
その中で、どこに泊まろうとかどのレストランに行こうなどの決定権は家族の中の女性が握っていると思いますね。だからそこにターゲットにしたものを徹底してやっていかないと、そもそも旅行会社離れがおきてるから。

 

次なる一手は、原点回帰の「添乗員付きツアー」

後潟
なんでもネットで手配できる世の中ですけど、でも旅行会社としても顧客を抱え込まないといけないじゃないですか。どう対策してますか?
津田社長
まぁ企業秘密といえば企業秘密ですけど……。
今って、やっぱり「旅行会社離れ」になっているわけですよ。そういう意味では、日本行きマーケットはしんどくなってきている。だから今はタイ人にとって旅行の手間のかかる国に注力しています。
後潟
たとえばどのエリアですか?
津田社長
そういった意味でいうとヨーロッパ。ビザがいるし、まだ大変だし。
後潟
なるほど。日本行きはもう厳しいと?
津田社長
日本行きに関していうなら、2013年にビザが解禁されて、わずか7、8年の間にタイ人の旅行トレンドが変わっている。今、うちH.I.Sは訪日旅行をたくさんタイ人のお客様が買ってくれたという成功体験を持っちゃっているんですよ。僕はここに警鐘を鳴らしていて。
JRのパスにしろUSJのチケットにしろ、うちで買ってくれると思ってるけど今はOTAが台頭しているから。

専門用語 メモ

  • OTA:Online Travel Agentの略。店舗を持たないインターネット上の旅行会社
後潟
たしかに数年前まで、日本の旅行商品を買うならH.I.Sさんで買うっていうイメージがありましたよね。タイ人に聞いても必ず名前が挙がりますよね。
津田社長
そういう意味でのラッキーさはありますよね。H.I.S.ってバンコク首都圏では認知度があるので、交通パスや各種チケットなどは極力インターネットの販売に持っていきたいなと思っています。あと…
後潟
あと?
津田社長
OTAって社員の半分くらいがSEですから。そういう会社と我々が同じフィールドで一緒に商売やるっていうのは、厳しいじゃないですか。なので僕たちは、コレクティブツアー(添乗員付き募集ツアー)、原点に立ち返ろうかなと。
後潟
おお! もう一回コレクティブツアーを強化する、と。
津田社長
そうですね。チケット1枚から買えるオンラインサイトも出てきている中で、H.I.S.離れしているわけです。だからもう一回、添乗員つきで、しっかり企画性を持った、選んでもらえるような商品づくりをしたい。
さすが日系の会社だからこそこんなサービスが入ってる」とか、「こんなことが体験できる」に立ち返る。
後潟
そうくるとは思いませんでした!
津田社長
どんなにFIT(個人旅行)化が進んだとしても、パッケージツアーというのはなくならないと思うんです。タイでも同じだと思っていて、自由に旅行はできるようになっているけど、「効率良くまわりたい」とか、「このツアーでしか入れないところがある」ものはやっぱり選んでいただけるし、そこでがんばりたいなと。常にオンリーワンを意識する。
またFIT向けに単品売りしていくものは効率性を持って販売することと、もう一方は人できちんとクオリティの高いサービスしていくと。相反するところをやっていきたい。訪日は特にそうしたいと思っています。
後潟
それはタイの旅行会社さんのような格安なところとの差別化にもつながる?
津田社長
そうですね。我々が彼らと同じ土俵で勝負するのは絶対に無理だと思うんです。アソークにオフィスを構えていて、これだけの日本人が働いている時点でコスト的にも絶対無理。そこと同じ土俵で戦ってもダメなので、絶対無二で確実にオンリーワンを狙いたいです。
後潟
満足感と差別化ですかね?
津田社長
そう。差別化をはかることが今一番やらなきゃいけないところ。格安ではなくて「お得な会社」「バリューのある会社」を目指さないといけないと思ってます。
後潟
タイが一気に成長して置いてきた中に、添乗員ツアーの旅があったと思うので、これから新たにタイ人がそういうツアーの魅力に気づくこともあるかもしれないですね。
津田社長
う〜ん、なのでナンバーワンよりオンリーワンを目指すんですよね。ナンバーワン戦略をタイ市場でやっていくのは、グローバル競争的にちょっと難しい。すでにいる社員を食べさせていくとなると難しい。
後潟
インターネットで注文してあとは窓口で、という会社とは比べられないですもんね。
津田社長
そうそう。LCCは一切の無駄を省いて全部ネットで買わせるというのを徹底しているからコストも下げられるのに、こっちはコストがかかってるから、値段を下げるとただ利益を削るだけになっちゃう。

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この記事を書いた人

SWIM Co.,Ltd.MarketingMai Miyajima
長野県上田市出身。男性ファッション誌、女性ライフスタイル誌の編集者を経て、バンコクへ移住。
タイ現地のフリーペーパーの編集部に所属し、編集長を務める。
3年半のタイ生活を経て、日本に帰国。現在は鎌倉に住みながら、WEBや雑誌で編集・ライターの仕事を中心に行う。
大好きなタイの魅力を日本人に伝え、自分のふるさとのよさをタイの人に伝えていきたい。
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