【H.I.S. Toursインタビュー】日本とタイの旅行業界を見てきた社長が語る、これからの訪日インバウンドの一手とは?

【H.I.S. Toursインタビュー】日本とタイの旅行業界を見てきた社長が語る、これからの訪日インバウンドの一手とは?

タイ人が次に旅行する日本の都市はどこか?

後潟
タイ人の日本旅行ってゴールデンルート(東京〜富士山〜大阪)の観光が定番で、今はだんだんと各都市型観光に移行しているような気がするんですけど、今の日本旅行のトレンドとかってありますか?
津田社長
希望的なところでいうと、仙台線も飛んでいるので、東北地方は注目しています。タイに掛けられているプロモーション予算も多いので。
後潟
「TOHOKU」という名前の知名度は上がってきていると思うんですけど、具体的にタイ人の東北のどこを旅行しているのかは、なかなか表に出てこないような気がしてるんですよね。
津田社長
そうですね。これも旅行会社がアナログすぎてダメなところだと思うんですけど、ビッグデータが大切で。そこはもうちょっと分析しないとだめでしょうね。
後潟
東北だと蔵王に行く、あと仙台、この2つの名前は聞くんですけど、ほかって?あと個人旅行でいくには観光地が点々としているのでなかなか行きにくいという声も聞きます。
津田社長
そういう意味では、旅行会社としてはチャンスですよね、我々としたら。東北もそうですが、九州とか地方はまだまだ旅行会社としてのチャンスがある。
後潟
行きづらいからですか?
津田社長
効率良くまわりづらいから、ですね。タイ人の方はアグレッシブに旅行してくれるのでチャンスがあるかなと。いろんなところに行ってみよう、SNSで調べたここに行ってみたい!というのがある。エネルギーが勝つから。
後潟
個人旅行の人だと、たとえば大阪に入って宿はずっと一緒。そこを拠点にしながらいろんなところに日帰りで遊びに行く、なんて旅行スタイルも聞きますね。
津田社長
あるね。みんなパス買って、いろいろまわる。
後潟
じゃあ、東北がまわりにくいっていうのは拠点がないからってことなのかな。まぁ仙台にしかないってところですかね。今の段階ではまだ行きづらい。
津田社長
なので東北旅行だと周遊するパターンが多いんですかね、おそらく。JRパスを使って。1泊ずつ。
というか、訪日インバウンドの地方の問題って、これに尽きますよね。
後潟
というのは?
津田社長
都心部以外のところに観光客を呼び込みたいって、地方自治体の方はみんな言いますが、そこからですよ。本当に日本が整備しなくちゃいけないのは。
どうやって駅から観光地までの二次交通、ルートを作っていくか、どうやって回らせていくかっていうところをやらないと。結局はみんな地方に来てほしがっているけど……
後潟
来たはいいけど、どう観光すればいいの? ってことですよね。受け入れ態勢がまだ整ってないなかで誘致している感はありますね。

 

地方に外国人観光客を呼ぶキモは「二次交通」

津田社長
いろんな自治体さんが「わが町に来てくれ」と言う。となると、観光客が地方都市に行った時の「行きたいところにどうやって行くの?」っていうのはもっと考えて投資しないといけない問題。
「こんな素敵な景色がありますよ!」とPRしても、そこに行くにはJRのターミナル駅から1時間に1本しかない列車に乗り継いで、駅に降りたあとの足はなくて……、だと個人旅行者には厳しい。ツアー客ならいいですけど。
後潟
それでも個人旅行者を呼びたいという声は強いですけどね。
津田社長
あと僕がよく日本の訪日担当の方に相談されるのは、「地方空港にチャーター飛ばしてほしい」とか「どうやったらタイの方が来てくれますかね?」というもの。
言われたときは、「日本人がタイに来なかったら、タイ-日本間の飛行機なんて飛びませんよね?」って言ってます。
後潟
本当にそうですよね。相互の行き来があって、利用者が見込めて、初めて路線が開通する。
津田社長
あとは逆に、「あなたはタイに旅行に行くときにどこの街を知ってますか?」って質問します。そうするとバンコク、プーケット……まぁ出てきてチェンマイくらい。はっきり言って、日本人は年間タイに140万人も来ていて、ビジネストリップも入れたら160万人ほど来ていますけど、この3都市だけでほぼ完結ですよね。
たとえば……チョンブリって、ちょこちょこいい観光地があるんですよ。きれいなお寺もあって。さぁ、「チョンブリ」って書いたパンフレット、日本に置いてあったとして、あなた行きます? って。どっかの地方都市だけのパンフレットをタイに置くのはこれと同じ見え方ですよね。だから、ただ街に来てくださいと言うのではなく、どういうステップを踏んでいけばいいのか、そのギャップを埋めないといけない。
後潟
それって圧倒的にPRが足りてないと思うんですよね。認知度がないのに呼びたいと言われる。
津田社長
そうだと思います。
後潟
僕も自治体さんからよくツアー作ってくれないか? とよく頼まれるのですが、ツアーを作るのは簡単なんですよね。ただ、人が集まって催行できるかはまた別の話で。
津田社長
その通り。
後潟
まずはツアーに参加してもらえるようなコンテンツをしっかり持つことと、それを表に出すっていうこの2点が絶対条件だと思うんですけど。
津田社長
そうですね。もうちょっと冷たい言い方してしまうと、各地方がオンリーワンを徹底的に磨かないと、旅行者も来ないですよ。
特に地方にありがちなのが、うちのぶどうが、いちごがうまい!みたいなやつ。それって、日本で本当にナンバー1のいちごだったら旅行商品として価値はあります。ただ、2番目とか3番目とかブランドの名前が浸透してないものだと弱い。
後潟
厳しいけど、本当そうですね。
津田社長
おいしいのはわかります、僕は日本人だから。これめっちゃうまいんだろうなって思うけど、だけどそれで外国人に響くかどうかは別。覚悟を持って、どこまで尖らすかが勝負なんです。「うまい飯、きれいな風景、なんでもかんでもありますよ」はPRにならない。
後潟
一個絶対的に行きたいと思わせるアイコンがあったうえで、まわりにもこんな魅力があるんですよ〜、という見せ方だったらいい。そうじゃないと行くきっかけにならないですよね、自分に置き換えて考えても。
津田社長
そうですね、よほどの魅力がなければ、大金を出してまで来ないです。
僕も、日本の訪日担当の方にいい顔はしたいと思うんですけど、同時にちゃんと売らないといけないという責任もあるので。PRするだけだったら気が楽なんですけど、僕らに求められるのはそれなりの実績なので。
受け入れ状況は整ってないんだけど、今トレンドだからやらなきゃ、みたいな義務感になってるような気もする。まわりもやってるから、日本人の横並び精神というか。

 

「東南アジア」とひと括りにしたPRは響かない

後潟
あとは国によってPRするコンテンツを分ける必要もあるのかと思いますね。「外国人観光客」という大きなくくりで、全部共通のPRでいく、みたいなところもありますよね。
津田社長
東南アジアひとくくりにされちゃう、みたいなのはありますね。当然ながら国民性違うので……。
後潟
ですよね。
津田社長
日本の島国根性が出ちゃってる気がしますね。外国をまとめて見てしまう。
後潟
日本も「東アジア」ってまとめられたときには「え、全然ちがうよ」ってなるのに、東南アジアはひとくくりにしがちですよね。
津田社長
それが一番よくないなぁと思いますよね。変なプライドの高さがある。個別な国の戦略をとってないのは事実ですよね。
後潟
まぁまだそこまで追いついてないっていうのはあると思うんですけどね
津田社長
日本側はそうかもしれないですね。
だから日本の自治体の人と僕らが話すよりは、まずは自治体と地元の交通が話をすることが先だと思います。
僕、やっぱり最終的には交通だと思うんですよ。個人旅行にしても団体旅行にしても交通がキーファクターなんで、そこをまず話してもらわないとね。観光地をプレゼンされても「それどうやって行くの?」ってなっちゃう。
後潟
そうですね。鉄道会社、バス会社ですかね。
津田社長
鉄道はやっぱり一時交通なんですよね。大きい拠点から大きい拠点へ。
僕が整備してほしいと思っているのは「鉄道のその先」なんですよね。バスなのか、コミュニティバスなのかいわゆる100円バス見たいなもので観光地まわれるとか。そこに投資をしてもらわないと。言葉が通じないとかの問題は二の次ですよ。
後潟
それでいくと白川郷は成功事例のひとつのような気がしますね。結局、山の中にあってバスでしかいけない。だから交通会社と一緒にツアーを作ってる。
津田社長
そうですね。そういうこととか、地元を巻き込んでやっていくとかが大事。
どこだっけな〜、感動したことがあって。街のレストランで食事した料金まで、最後宿泊したホテルでチェックアウトのときに会計できるようなシステムを街ぐるみで取り組んでらっしゃって。
後潟
へー!
津田社長
そういう発想が素晴らしいと思う。地方はそれをやっていってほしい。
後潟
逆に、インバウンドの面で日本がタイから学べる施策って何かありますか?
津田社長
たしかに。タイは観光立国としては大先輩。H.I.S.も20年以上タイでインバウンドをやってるチームは最高のお手本だと思うんですよね。
どうやって送迎の車両効率をはかるかとか、どうやって観光地をまわらせるかとか彼らはそればっかり考えているので、それをビジネスとして私たちも日本で活用できるかもしれない。
後潟
何かヒントが落ちていそうな気がします。
津田社長
実はH.I.S.の日本のインバウンドはまだまだ未熟な部分もあるんです。でも、これがうちのハワイだとトロリーを3分間隔で4系統走らせたりしてるわけですよ。空港から観光地、観光地から観光地をピストン輸送している。
H.I.S.って、いろんな国で日本人を快適に旅行させることに尽力しているわけですよ。これを今日本にフィードバックしたほうがいいですよね。ハワイのトロリーなんて、日本人を受け入れるために磨いてきた最高の交通インフラなわけですよ。
うちの全世界のイン拠点、タイでもそうです。すべて送迎や観光の車にGPSがついていて、どこを走っているか管理できていて、一定速度を超えたらアラートが鳴るようになっていたり。ドライバーにすぐ電話できる運行管理をしています。
後潟
知りませんでした! ……すごいですね。
津田社長
こういうのを私たちの日本のインバウンドでももっと積極的にオンリーワンを考えて、これからは海外のお客様に提供していくことができればと思います。地方の観光開発にも役立てられそうな気がしますね。

 

【おわりに】対談を終えて

日系旅行会社の中でもタイ人に随一の知名度を誇るH.I.S。バンコクの中心、アソークの交差点には大きなH.I.S.の看板が掲げられています。今回お話を聞いて驚いたのは「え、こんなことまで正直に話してくれるんですか!?」ということ。

「外国人観光客を呼びたいなら、ナンバーワンになるか、オンリーワンを磨くこと」

きっと多くの訪日担当の方から相談を持ちかけられているであろう津田社長が言葉を濁すことなく語る背景には、送客を担う側の責任があります。

日本に観光に行ったタイ人が日本を楽しんで帰ってきてもらえるように。
そして、「日本旅行はよかったよ」と家族友人に伝えてもらえるように。

そして、H.I.S Toursとしては、添乗員ツアーに立ち返って訪日観光をPRしていく、という次の一手に進もうとしています。これからタイ人はどんな新しい日本旅行と出会うのでしょうか。H.I.S Toursがオンリーワンを狙い、打ち出すツアー。タイでの反響が楽しみです!

 

H.I.S. TOURS CO.,LTD.

住所:12 TH Floor Times Square Building, 246 Sukhumvit Road, Klongtoey, Bangkok 10110 Thailand
ウェブサイト:https://www.his-bkk.com/(日本語) https://www.histours.co.th/(タイ語)

 

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この記事を書いた人

SWIM Co.,Ltd.MarketingMai Miyajima
長野県上田市出身。男性ファッション誌、女性ライフスタイル誌の編集者を経て、バンコクへ移住。
タイ現地のフリーペーパーの編集部に所属し、編集長を務める。
3年半のタイ生活を経て、日本に帰国。現在は鎌倉に住みながら、WEBや雑誌で編集・ライターの仕事を中心に行う。
大好きなタイの魅力を日本人に伝え、自分のふるさとのよさをタイの人に伝えていきたい。
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